2019年のスペインのスリラー映画
主演者はイバン・マサゲ, アントニア・サン・フアン, エミリオ・ブア
こんな人にオススメ!
・上級国民のみなさん
・この世の実像を可視化したい
・情報量の多い映画に挑戦したい
映画「プラットフォーム」が5分でわかる!
あらすじ
48層
ゴレンが目覚めるとそこは第48層だった。
コンクリート打ちっぱなしの室内には、ベッドと洗面台くらいしかなく、他にはルームメイトのトリマガシという中年男性がいるだけ。
部屋の中央には大きな穴が空いており、毎日その穴にピッタリはまる台座“プラットフォーム”が降りてくる。
プラットフォームには豪華な料理が乗せられていたが、ここまでの47層ですでに残飯となっていた。
トリマガシは残飯を貪っていたが、プラットフォームは数分でまた下の階層に降り始める。
ある時、上層階から死体が落ちてきて、その直後プラットフォームに食事と共に女性が乗って降りてくる。
トリマガシによると、女性の名はミハルといい、毎月息子を探して階層を降りているという。
ミハルは毎月ルームメイトを殺し、息子とルームメイトになることを狙っており、先ほど落ちてきた死体もミハルに殺されたのだという。
さらに最下層の人間は、このように落ちてきた死体を食べ1ヶ月を生き抜いていることがわかる。
171層
1ヶ月経った頃、部屋中にガスが放たれる。
それは階層が変わることを意味しており、ゴレンが目覚めるとそこは171層だった。
ゴレンは彼に食われることを恐れたトリマガシにより、ベッドに拘束されていた。
案の定この階層まで料理が届くことはなく、いよいよトリマガシはゴレンの肉を削いで食べるという。
そこにミハルがプラットフォームに乗って現れ、なんの躊躇もなくトリマガシの首を切る。
ミハルによって拘束を解かれたゴレンは、トリマガシにとどめを刺し、ミハルはその死肉を食らう。
ゴレンはしばらくの間飢えに耐えていたが、ミハルの勧めるままトリマガシの死肉を口にする。
ゴレンはこの施設の料理長が、パンナコッタが盛り付けられた姿のまま戻ってきたことの理由が分からず激怒する夢をみる。
33層
ゴレンが気がつくとそこは33階層で、新しいルームメイトはイモギリという女性だった。
イモギリは元々この施設の管理側の人物で、ゴレンがに入る際に面接を担当していた。
イモギリはここが垂直自主管理センター(VSC)と呼ばれる場所で、連帯感を養うための場所であるという。
VSCは全部で200階層あるが、料理は全ての階層で必要な分だけで食べれば足りるようになっているという。
イモギリは料理が降りてくるたび、一人分の料理を取り分け、取り分けた分だけ食べるよう下の階層に呼びかけていた。
しかし下の階層の人たちはいうことを聞かず、好きなだけ料理を食べてしまう。
ゴレンは下の階層が2週間経っても変わらないことに苛立ち、料理にクソをすると脅し取り分けた分だけ食べさせる。
ある時、ミハルが料理の中に倒れた状態で降りてくる。
二人はミハルを看護するが、ミハルはイモギリが持ち込んでいた愛犬を殺して下の階層に行ってしまう。
イモギリによるとミハルは入所した時すでに一人であり、彼女が探している息子などいないという。
202層➡︎6層
次は202層で、ゴレンが目覚めた時、すでにイモギリは首を吊って自殺していた。
ゴレンはドンキホーテの本を食べ生き長らえていたが、とうとうイモギリの死肉を削いで食べてしまう。
それからゴレンはイモギリの幻覚を見るようになる。
ゴレンがミハルに刺される夢で目を覚ますとそこは6層で、新たなルームメイトはバハラトという黒人だった。
バハラトは上の階層と交渉し、持ち込んだロープで上に上がろうとしていたが、上の階層に裏切られ失敗する。
VSCの仕組みを覆すため、ゴレンはプラットフォームで下層に降り、料理を取り分けながら最下層まで行くことを思いつく。
ゴレンの計算によれば階層は250層まであり、プラットフォームは最下層まで行けば最上階に戻ると思われた。
ゴレンとバハラトは武器を持って料理と共に下層に降り食料を取り分けていく。
言うことを聞かず、料理を貪る人には武力による制裁が課された。
その途中の階層でバハラトが尊敬する人物と出会い、最上階に伝言を届けるため、完璧に盛り付けられたままの料理を最上階に戻せと言われる。
バハラトはこの進言を聞き、パンナコッタの一皿を手に取り、それを最後まで守り切ることにする。
さらに下層に降りるとミハルがルームメイトを殺した直後の階層に出る。
ミハルはその先の階層におり、その階層の男たちに殺されそうになっていたため、ゴレンは助けようとする。
しかしゴレンは逆に殺されそうになりバハラトも負傷するが、何とかその階層の男たちを倒すものの、結局ミハルを助けることはできなかった。
333層
250層を過ぎ、さらに下に降りる。
333層に着いた時プラットフォームが止まる。
そこでゴレンは女の子がいるを見つけ、プラットフォームを離れてしまう。
その間にプラットフォームは下層に降りて行ってしまい、ゴレンとバハラトは女の子と部屋に取り残される。
バハラトはここまで命をかけて守ってきたパンナコッタを空腹の女の子に与える。
バハラトはこの女の子が伝言になるとゴレンに言っていたが、それはゴレンの幻覚で、バハラトはすでに傷が元で亡くなっていた。
翌日すでに食器だけになったプラットフォームが降りてきて、ゴレンは女の子と共にさらに降りる。
一筋の光が照らすだけの最下層にはトリマガシがいた。
ゴレンは女の子と共にプラットフォームに乗って伝言を届けようとするが、トリマガシはゴレンは運び手であり伝言ではないと止める。
ゴレンは女の子だけを残しプラットフォームに降り、女の子を乗せたプラットフォームは0階層に戻っていくのだった。
レビュー・考察
社会問題に切り込むスリラー。
無名のスタッフ陣ながら、実に考えさせられる良作。
垂直自主管理センター(VSC)とは?
ゴレンが入った施設。
この施設には2種類の人間がいる。
・自主的に入ってきた人 ➡︎入ると願いが叶うことが示唆されており、認証書がもらえる。
・強制的にぶち込まれた人➡︎犯罪者、認証書のことは知らされない。
前者はゴレン、イモギリ、ミハル。
後者はトリマガシ。
自主的に入ると願いが叶うことが示唆されており、イモギリは3年間のガンとの闘病生活の末、自らVSCに入っていた。
しかし劇中での元気な様子からガンは治癒している様子だった。
ミハルは元女優で、ウクレレ片手にVSCに入った。
夢はマリリンモンローのようなスターになることだった。
VSCに入るにあたり、一つだけ何でも持ち込むことが許されており、トリミガシはナイフ、イモギリは愛犬を持ち込んでいた。
ゴレンが持ち込んだのはドンキホーテの書籍であり、彼が理性的な人物であることを表している。
上級の決して分配されない富
食事はプラットフォームの乗せられ上の階層から順番に降りてくる。
各階の人々がそれぞれに好きなように飲み、食らい残飯を下の階層に残す。
誰もが自分だけが満腹になることを考えている。
毎月階層は変わるため、上の階層の人物は下の階層の苦労を知っているはずだが、下の階層に料理を残そうとは決して考えない。
それだけならまだしも、トリマガシなんかは食後に唾を吐いて下の階層に回していた。
そういうエゴイズムが蔓延る場所。
階層の上下にはプラットフォームが入る穴があるため、互いに声をかけることはできる。
しかし上の階層は下の階層の言葉には耳を貸さないし、下の階層は自分より下だと見下している。
ゴレンは料理を階層で分かち合うアイデアを思いつくが、上下の差別意識から誰も聞いてくれず、トリマガシには共産主義者と揶揄される。
そう、VSCはいわば資本主義の可視化と言える。
富の上流にいる人たちの残飯にすらありつけない貧困層が沢山いて今にも死にそうだが、上級はそんなの関係ねぇを決め込んでいる。
毎月変わる階層は、国ガチャを連想させる。
好きな物を食べられる日本に生まれた諸君は、今何階層だろうか?
血肉は一部となる
本作の特徴は聖書の引用からなる宗教描写にもある。
ゴレンはトリミガシとイモギリの死肉を食べるが、これにより彼らの幻覚に悩まされることになる。
劇中では血肉を摂取することで、その人物の一部となることが言われており、これはヨハネの福音書から引用でもある。
イエスは言われた。
ヨハネの福音書
「はっきり言っておく。人の子の肉を食べ、その血を飲まなければ、あなたたちの内に命はない。
わたしの肉を食べ、わたしの血を飲む者は、永遠の命を得、わたしはその人を終わりの日に復活させる。
わたしの肉はまことの食べ物、わたしの血はまことの飲み物だからである。
わたしの肉を食べ、わたしの血を飲む者は、いつもわたしの内におり、わたしもまたいつもその人の内にいる。」
トリミガシはゴレンが否定するエゴイズムを肯定する囁きをし、イモギリは連帯感の必要性を訴え続けていた。
ゴレンがイモギリの死肉を食らった後、下層に料理を配り始めたのは決して偶然ではない。
ちなみにイモギリが自殺したのは202層に絶望したからだと思われる。
VSCの管理側だった彼女ですら全部で200層だと教えられていた。
そのつもりで分け合えば料理は十分だ、と思ってやってきた自身の行動に絶望してしまったのではないだろうか。
まぁ実際には333層まであるんですけどね…闇が深すぎるよ。
子供は伝言になる
ゴレンはバハラトと333層にたどり着き女の子を見つける。
ミハルが探していた子供との関係が微妙だが、ミハルは息子を探していると言われていた(本人は一度も言っていない)からそれを信じるなら別人ということになる。
しかし16歳以下は入ることのできないVSCに子供がいることを、なぜミハルは確信していたのか?
なぜ彼女はいつも下の階層を目指していたのか?
女児がミハルと同じアジア系だったとは偶然なのか?
謎は尽きないが、どうもミハルの目的はこの少女で、イモギリが言っていることが間違っているような可能性も十分あり得そうである。
最終的に0層に届けるはずだった完全な状態のパンナコッタはこの女児の胃袋に収まり、かつてゴレンが幻覚で見た光景は永遠にかなわないことになった。
(中盤の料理長がパンナコッタに毛髪が入っていたらから誰も食べなかったのか!?と怒っているシーン)
パンナコッタの代わりにこの女児が伝言になるとバハラトは考え、ゴレンに送り届けさせる。
さて、バハラトが0層に伝えたかった伝言は何か?というのが問題になる。
劇中では明確に語られないため推測するしかないが、思うにVSCの不正を見つけたぞという表明なのではないだろうか?
女児は最下層である333層で生きていた。
200層程度でも料理はないのだから、こんなところまで料理は絶対に届かない。
しかし女児は元気で身なりもこぎれいにしていた。
しかもいないはずの16歳以下である。
これはもうVSCが手を回して、特別待遇で生かしていたとしか思えないワケですな。
VSCが隠していた秘蔵っ子、その存在をミハルは知って探してた可能性もありそう。
いずれにせよ秘密を暴いたぞという伝言を0層に伝えることで、反抗の意思を示したかったのではないだろうか。
資本主義の視覚化としては、生活が保障された特別待遇のコネ枠といったところかな。