2019年のミステリー
主演者はジェシー・アイゼンバーグ, イモージェン・プーツ, ジョナサン・アリ
こんな人にオススメ!
・かっこうの托卵の恐怖を知りたい
・じわじわ心を蝕むようなホラーが好き
・キリコやマグリットの絵画が好き
映画「ビバリウム」が5分でわかる!
あらすじ
出口なき住宅地ヨンダー
若い夫婦のジェマとトムは新居を求めて不動産屋を訪ねた。
そこにはマーティンという営業がおり、二人は推されるままヨンダーという郊外の住宅地の内覧に行く。
ヨンダーは緑色の画一的な一軒家が並ぶ住宅地で、二人はその中の一軒に案内されるが、内覧の途中でマーティンはいつの間にかいなくなる。
二人は来た道を戻って帰ろうとするが、なぜか住宅地から出ることができず内覧していた家に戻る。
翌朝、二人はひたすら太陽の方に向かって歩き続けることにするが、緑色の住宅地はどこまでも続いており、なぜか元いた家に戻ってしまう。
トムは家を燃やしてSOSを知らせようとするが、気がつくと翌朝になっており、目の前の段ボールには赤ん坊が入っていた。
段ボールには育てれば解放されると書いてあり、燃やしたはずの家もいつの間にか元通りになっていた。
薄気味悪い子供
それから98日目後、赤ん坊は小学生くらいの子供に育っていた。
しかし子供は夫婦の会話をそっくりそのまま真似するなど薄気味悪いところがあり、トムはかなり苛立っていた。
このころトムは一心不乱に穴を掘り続けており、そのまま疲れて穴の中で眠る毎日を送っていた。
そんなある日、子供が突然姿を消す。
ジェマは家中を探し回るがどこにもおらず、いつの間にか戻ってきた子供はその手に見慣れぬ赤い本を持っていた。
ジェマが子供に尋ねると、子供は謎を解きに行っていたと話し、誰と会っていたかは教えてくれなかった。
ジェマは子供にモノマネをさせ誰と会っていたか突き止めようとするが、子供は不気味の喉を膨らませ、どこにも帰れないとジェマに告げるのだった。
トムの最期
子供は青年になり、二人は寝室に閉じこもるようになっていた。
トムは体調を崩して咳き込むようになっていたが、それでも穴を掘り続けたため、ついに家の外で倒れ込んでしまう。
ジェマはトムと家に入ろうとするが、玄関には鍵がかかっており、家の中にいる青年は鍵を開けようとしない。
そのままトムは眠ったように息を引き取り、青年その亡骸を死体袋に入れ、トムが掘っていた穴に放り投げる。
ジェマは青年に背後から近づきツルハシで攻撃するが、負傷させただけで殺すことはできなかった。
青年は四つ足歩行で歩道のコンクリートの下に逃げ込み、ジェマもそれを追いかける。
そこはさまざまな家に通じる異空間となっていたが、結局ジェマは元いた家に戻ってしまう。
繰り返す輪廻
青年は、ジェマを世界のために息子を育てる母親だとしたが、ジェマはお前の母親ではないと否定しジェマは死亡する。
青年はジェマの死体を死体袋に詰めてトムと同じ穴に埋める。
青年は家を元通りにし、車でヨンダーを後にしマーティンの不動産屋に向かう。
そこには老人になったマーティンがおり、青年にマーティンの名札を譲って死亡する。
青年はマーティンの名札を身につけると、老人を死体袋に詰めダストシュートから廃棄する。
そしてマーティンとなった青年の元にはまた家を求めて夫婦が訪ねてくるのだった。
レビュー・考察
主な登場人物わずか3人。低予算不気味系ミステリー!
ちなみにビバリウム【vivarium】とは生物本来の生息環境を再現した飼育・展示用の施設のこと。
つまり自然を再現した動物園や水族館といった感じ。
本作はまさに人間のビバリウムの話になる。
かっこうの托卵
映画冒頭でかっこうの托卵様子が描かれるように、本作のテーマはかっこうの托卵の人間版である。
托卵とは、かっこうが別種の鳥の巣に卵を預ける習性のことで、孵化したかっこうの雛はその鳥の巣にあった卵を全て巣から落とし、別種の鳥の母に餌をもらって大きくなるというもの。
ヨンダーの家に届いた段ボール箱には赤ん坊が入っており、トムとジェマはそれを育てることになる。
見た目は人間だが、赤ん坊の成長速度は常軌を逸しており、100日未満で小学生サイズになる。
この時点で人間でないのは明らかなのだが、人間に見えてしまうのが托卵と同じ構図。
かっこうに托卵された鳥も、かっこうの雛が自身より大きくなっても、子供だと思って育ててしまう。
その様子が実は映画冒頭で流れている。
いや、それともトムやジェマのように、鳥たちもかっこうの雛だと気づいていながら育てざるを得ない環境に置かれていると言いたいのだろうか…
子供の正体
子供の正体は人間ではないことがわかったが、その正体は劇中では明示されない。
テレビに映った砂嵐のような画面をじっと見つめていたり、いつの間にか持っていた赤い本には地球人類のイラストが書いてあったりと、おそらく宇宙人か何かだったのではないだろうか?
そうなるとヨンダーは生まれたばかりの宇宙人が育つための施設であり、育成システムとして地球人類への托卵を採用していると考えられる。
シュールレアリズムを思わせる街並み
本作はヨンダーの奇妙な街並みが特に印象的。同じ緑色の家と同じ雲が延々とづづいており、その先は見えない。
街の中には誰もおらず、のっぺりとした緑の家がひたすら並んでいる。
この光陰際立つ住宅地の光景は、キリコのシュールレアリズムの絵画を思わせる。
一見普通の光景なのにどこか不思議で不気味なのだ。