2024年のフランス映画
主演者はケイレブ・ランドリー・ジョーンズ
犬からしか愛を感じられなかった男の奇怪な一生を描いたサスペンス
こんな人にオススメ!
・愛犬家のみなさん
・人生の不条理に抗いたい
・ダークヒーローに憧れる
映画「DOG MAN/ドッグマン」が5分でわかる!
あらすじ
自由の代償
トラックの荷台に大量の犬を乗せた女装の男性が警察に逮捕される。
警察は精神科医エヴリンに男と話すよう依頼し、エヴリンは男からその悲惨な過去を聞く。
男は名をダグラスといい、幼いころ闘犬を営む父親と暮らしていた。
しかし父親はいつもダグラスやその母に暴力を振るっており、ある日、ダグラスの兄がダグラスが密かに犬に餌をやっていることを父親に告げ口したことで父親は激怒、ダグラスを犬小屋に閉じ込める。
その後、母はダグラスを置いて家を出ていき、ダグラスは母が犬小屋に隠していた婦人誌を見つけ読み耽るようになる。
ダグラスに転機が訪れたのは子犬が生まれた時だった。
ダグラスは密かに子犬を可愛がっていたが、それを見つけた兄が父親に告げ口をしてしまう。
激怒した父は銃を持って現れ、子犬を庇ったダグラスに発砲してしまう。
ダグラスは指を失ったが、その指を犬に持たせ、発砲で開いた穴から警察に届けさせた。
ダグラスは警察に救助され一命を取り留めたが、銃弾で脊髄を損傷しており車椅子での生活を余儀なくされるようになる。
本当の愛
その後ダグラスは養護施設で演劇を教えるサルマに出会い、シェイクスピアとメイクを教わり劇を演ずるようになる。
ダグラスはメイクとセリフで虚構の世界に入り込むのに夢中になるが、サルマは養護施設を離れ大きな楽団に移って行ってしまう。
ダグラスはサルマの記事を追いかけ続け、大学を卒業する頃舞台まで会いにいく。
サルマはダグラスを歓迎し、ダグラスは何年もかけて作り上げたサルマの記事のスクラップブックをプレゼントする。
しかしサルマはすでに演出家と結婚しており、サルマのお腹にはすでに子供もいた。
ダグラスは勤務していたドッグシェルターに向かい、失恋のショックからひとしきり暴れた後倒れ込む。
倒れ込んだダグラスを犬たちが慰め、ダグラスは本当の愛は犬にしかないと悟る。
DOG MAN
その後ドックシェルターの管理人となったダグラスの元に役人が現れ、施設が閉鎖されるという。
施設閉鎖の日、役人がドッグシェルターを訪ねると、そこには誰もおらず犬も1匹残らずいなくなっていた。
ダグラスは廃校に拠点を設け、そこで犬と暮らすようになるが、車椅子のダグラスの求職活動は困難を極め全く採用される目処は立たなかった。
そんなおり、ダグラスはゲイバーのショーに職を求め、女装して舞台に立つことになる。
ダグラスの舞台は大成功に終わり毎週金曜舞台に上がるようになる。
その一方で犬の仲介等で生活費を稼ぎながら、ダグラスは犬と完璧に意思疎通できることを利用し、大富豪の家に犬を盗みに入らせるようになる。
そんなダグラスの悪事も、監視カメラの映像で被害者の保険会社の調査員にばれてしまう。
調査員は尾行しダグラスのねぐらである廃校を訪ね、ダグラスに犬を使った盗みの件を問い詰める。
調査員は銃でダグラスを脅し盗品の隠してある金庫を開けるが、その直後大勢の犬に噛まれ命を落とす。
マフィアとの戦い
ダグラスが逮捕される前日、ダグラスが以前人に頼まれて犬に襲わせてたマフィアのボスが配下を連れて廃校にやってきていた。
ダグラスは自ら銃を持って犬と共に応戦し、配下たちを次々と倒すが、ボスは大型ライフルを使ってダグラスを追い詰める。
しかしダグラスの居室で撃とうとしたところ弾切れになり、犬たちに襲われて命を落とす。
そしてダグラスは警察に逮捕され、飼っていた犬たちはどこともなく一斉に走り去っていった。
舞台はダグラスと精神科医エヴリンの接見に戻り、話を終えたエヴリンが取調室を去ると、1匹の犬が遠吠えをする。
同時に犬たちは町中を走り回り、警察から取調室の鍵を奪い取り、ダグラスに渡す。
ダグラスは易々と外に出て車椅子を捨て、教会の十字架を前に自らの足で立ちはだかり、犬たちに囲まれながら倒れ込む。
そしてエヴリンの自宅には1匹の大型犬が現れ、じっとエヴリンを見つめるのだった。
レビュー・考察
犬との絆
犬からしか愛を感じられなかった男の奇怪な一生を描いたサスペンス。
監督はインタビューで人が犬小屋に閉じ込められた事件に着想を得たと語っている。
ダグラスは暴力を振るう父親と冷たい兄に育てられ、母は犬小屋に閉じ込められたダグラスを置いて逃げるという凄惨な家庭環境に育ったため家族から愛を得られなかった。
さらに恋をした女性サルマは、思わせぶりな態度で接してきてからの…旦那登場でダグラスの人間への絶望感はマックスになる。
しかしダグラスにはずっと愛を与えてきた犬たちがいた。
ダグラスを犬小屋から脱出させてくれたのも、失恋のショックを癒してくれたのも、犬たちだけだった。
人間と違い、与えた愛に必ず応えてくれる犬のみを信じ共に過ごすことで、ダグラスは犬たちと完璧なコミュニケーションをとることができるようになり、犬を自由自在に扱えるまでになった。
犬を使って狙った人物を襲わせるのはもちろん、盗みやトラップの発動までなんでもできる。
マフィアのボスの脅迫シーンでは、食いつくだけで噛ませず、交渉がまとまるまで我慢させるという完璧な意思疎通とコントロールを実現している。
ほとんど操作系の念能力者である。
圧巻なのはラストの廃校でのマフィアとの戦い。
可愛いワンちゃんだと思ったらいきなり壁の中に引き摺り込まれたり、ワンちゃんが発動させたトラップで感電したりとほとんど恐怖の館である。
暗がりで犬たちの光る目が一斉にこちらを向いているシーンなんて完全にホラー。
それまで愛らしい姿をこれでもかと見せてきた犬たちが、ダグラスの敵には豹変する様は圧巻である。
このシーンだけでも見どころ十分なのでぜひ見てほしい。
人生の不条理
犬との絆の一方で、人生の不条理に対する反逆が描かれている。
ダグラス犬を使って金持ちから貴重品を盗んでいたが、自身は金に執着がなく、映画のラストまで一貫して廃校に住み続けていた。
逆に金・金と迫ってきた保険会社の調査員は、凄惨な最後を遂げることになる。
目的は富の再分配と語っていたように、盗品で得た利益は貧しい人に恵んでいたようである。
DOG MANと名乗り、犬を使って困った人を助ける義賊のような活動もしていたあたり、人生の不条理に反逆したいという思いを感じさせる。
しかし、ダグラスが助けた人がその拠点の場所をマフィアにバラしたことでダグラスが襲撃されるあたり本当に救いがない…。
また、ダグラスが女装するのは、虚構の人物になりきることで、現実を忘れるためだった。
あまりにも凄惨な人生を余儀なくされてきた不条理から、自らの心を守るため必要なことだったのだろう。
女装に抵抗が無かったのは、幼い頃母が隠していた婦人誌を犬小屋で読み耽っていたからと思われる。
人生何が役に立つかわからないものである。
神への反逆
ダグラスは自身を「DOG MAN」と名乗っていたが、これは敬虔なキリスト教徒だった兄がダグラスの犬小屋に「IN THE NAME OF GOD(神の名の下に)」と薄い布で掲げたのを裏から読んだことに由来している(GOD➡︎DOG、NAME➡︎MAN(Eが隠れてダグラスからは見えていない))。
この頃からダグラスの心の中には、神に対する反逆心のようなものがあったものと思われる。
不条理な環境に生まれ、神の名の下に言葉を語る兄にあれだけ嫌がらせされれば、神なんて信じる気もなくなろうというものである。
ラストはダグラスが教会の十字架を前に自らの足で立ち向かっているが、これは自由の代償に足を奪っていった神に対する反抗心の現れであると思われる。
時間軸が入り乱れるトリッキーな構成になっているが、それを気にさせないくらい引き込まれる作りになっている。
すでに人間社会の常識が通じないダグラスには恐怖さえ覚えるが、ダークヒーローが好きな方にも是非見てほしい。